プリンセス転居

やっと風邪が治ったと思ったらクロスフェードする形で今度は花粉症である。
漫画みたいな鼻水を垂らしながらも二日連続で徹夜して(寝てないけど悪夢)、業者が来る二十分前に何とかほぼ全部の梱包を終える。間に合わなかったら洒落にならない。「ボク、今年は単位いりません」では済まされないのである。なぜなら引越し業者の八割は前田太尊ばりに強面の兄貴達だからだ。モバイ○ドットコムみたいに口から「SAWAYAKA」を吐き出してるような大学生バイトを想像してると痛い目に遭う、とはまさに今日感じたことである。というのも、本日我が家にやってきた引越しチームというのが依頼主も裸足で逃げ出したくなるような埼京コワモテ集団だったのだ。メンバーのそれぞれが地元で名を上げた喧嘩屋であることはまず間違いがない。
「なるほど、ぼったくられるかもしれないな」そんな不安を鼻水と一緒に垂れ流しながら、部屋の隅に呆然と立ち尽くしている自分を尻目に、ならず者チームは終始無言で作業を進める。その姿はまさに「目の前に段ボールがあるから運ぶだけ」の引越しマシーン。しかも超はええのである。「あーもう無理無理。だって重いもん」とか夜中に泣き言を言いながら四日間かけて積み上げていった段ボールの山を一人で二個ずつ運び出し、ものの三十分でトラックにすべて積み込むパウワーは尋常ではない。その気になれば、暗黒武術会の円形闘技場を背中に担いで持ってくるだろう。
搬出〜輸送〜搬入までの正味二時間の間に交わされた会話が、「本ばっかりで、重いでしょう?」「大丈夫です、筋トレですから……」の一言ずつという非常にクワイエットかつスピーディーな引越しが終わり(結局ぼったくられなかった)、夕方、疲労がピークに達した僕は、気を絶するが如く布団の上にぶっ倒れる。それから四時間の仮眠を取り、後片付けを済ませる為、前の部屋にとんぼ返り。部屋には空色のカーテンと売却処分する機材以外は何もないが、水道と電気とネットはまだ生きているので今夜一晩泊まることに。部屋の真ん中に寝袋を敷いて周囲を見回してみるのだが、四年間住んだ部屋が今では何だかよそよそしいのだ。